プールの生物調査2~なぜ、ヤゴは死んでしまったのか~
7月に行った大人ばかりのヤゴ救出作戦では、シオカラトンボのヤゴ1匹が生きて捕獲できましたが、それ以外のヤゴは残念ながらプールに死骸となって浮いていました。その数は確認できただけで77匹。生きていれば再びプールに産卵に来ていた個体もあったでしょう。
私たちもこの結果がとてもショックで、何が原因なのか調べてみたいと考えました。
まず、昨年秋ごろにプールに撒いた薬剤について調べました。シーズンオフの屋外プールは防災・災害用水確保、並びにプール槽の劣化や亀裂を保護する目的で水を張ったまま放置します。その間に、落ち葉などの有機物などの混入により発生した藻や汚れのこびり付きは、簡単には取り除くことができません。そこで、藻や汚れの成分を分解する効果のある薬品を使用します。これはほとんどの学校でプール学習のオフ期間に使用している洗浄剤で、主成分は海水から抽出した「天然ミネラル水酸化マグネシウム」とのことです。サイトには、『もちろん、子どもたちが楽しみにしている「ヤゴ取り」にも影響はありません。』とあります。
では、なぜこんなにも多くのヤゴが羽化できなかったのでしょうか?
トンボの幼虫であるヤゴは、水の中で生活していますが水さえあればどこにでも生活できるというものではありません。プールには植物がありませんから、植物に卵を産みつけるようなトンボや泥の岸辺を好んで産卵するトンボもだめです。また、川のような流れのあるところ(流水系)にしか卵を産まない多くのサナエトンボなどのトンボもだめです。
結局、プールで卵を産めるのは、流れていない(止水系)、深い水の表面に直接卵をばらまくような産み方をするトンボということになります。それらのトンボは、夏に成虫で過ごし、プール学習のない冬の間に卵か幼虫で過ごしているトンボたちです。アカトンボのなかまやシオカラトンボ、ショウジョウトンボなどがあてはまります。
しかし、プールのトンボたちの運命も危険がいっぱいです。プール学習の前に水抜きをして清掃、消毒が行われるとみんな流されて死んでしまいます。ヤゴの運命は、プールの掃除が始まる前に羽化できるかどうかにかかっています。
また、プールにやってくるトンボたちは、ほとんどすべて倒垂型(とうすいがた)の羽化をし、何かにしっかりとつかまらないと羽化することができません。プールの壁はまっすぐになっていて、しかもよくすべるために、トンボは壁につかまることができず、水の中に落ちて死んでしまうことが多いということがわかっています。おそらく、今回見つかったヤゴの死骸も羽化に失敗した子たちではないかと推察されます。
新型コロナの影響で大和市内の学校のプール学習は2年続けて休止していますが、今回、水を入れ替えるタイミングでヤゴ調査ができたことはとても良かったと思います。プールは、トンボにとって、決してすみよい場所ではないこともわかりました。
できれば、来年は、子どもたちと一緒に多くのヤゴや水生昆虫を救い出し、飼育が難しくても近くの池やビオトープに放してやりたいなと思います。
ちょっと長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
もし、違う考察をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非ご連絡ください。お待ちしています。