「介護保険制度の限界と福祉の今後を考える」学習会報告 ~2024年度の制度改正議論から見えてきたこと~

介護の専門家がいない財政制度分科会からの提言

神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会主催の学習会「介護保険制度の限界と福祉の今後を考える」に参加しました。講師は、NPO法人暮らしネット・えん代表理事の小島美里さん。暮らしネット・えんは、高齢者や障がい者が「住みなれた地域で暮らしつづけたい」というあたりまえの願いを叶えるために支援事業、調査活動、学習会、文化活動などを通じて共に生きる地域社会を創ることを目的として結成されたNPO法人です。
現在、2年後に予定されている2024年度の介護保険制度改正について議論されている最中ですが、小島さんによると次期改正は、要介護2以下を軽度者として給付サービスから外し総合事業に移行する提案が財務省から出されるなど、重要な改正になりそうだと警鐘を鳴らしています。

サービスが受けられなくなる可能性も⁉

総合事業とは、介護保険法では、「介護予防・日常生活支援総合事業」として定められています。そもそも、財源の問題から2015年度の介護保険制度改正では、要支援1・2の対象者を軽度者として訪問介護・通所介護の予防給付の対象から除外し、地域支援事業を再編成しました。
当時、私たち、神奈川ネットワーク運動は、この問題に対してプロジェクトチームを立ち上げました。全国平均では、要支援1・2の認定者は約22%ですが、介護保険給付費のわずか6%であることから、介護保険財源を圧迫しているとは思えませんでした。また、ボランティア・NPOなどで対応することを考える国に対しても、現実その受け皿となる体制が質と量を賄いきれるかは疑問で自治体の地域格差が懸念されることから、国会でのロビー活動や署名活動、各自治体議会への陳情、意見書の提出を行いました。もちろん、次は要介護1、2の方が狙われると危機感ももっていました。
要支援サービスの廃止については、2015年度当初からではなく、自治体の準備状況等に応じて、2015年度から3年以内に完了という日程設定になっていましたが多くの自治体で遅々として進んでいない現状があります。
もし、2024年度改正でこれが現実になると、介護保険制度を誰もが平等に利用できなくなるのではないかと危惧します。

高齢者福祉のセーフティーネットの危機

厚生労働省が2020年に行った『介護予防・日常生活支援総合事業及び生活支援体制整備事業の実施状況に関する調査研究事業』には、総合事業を行うサービス事業者の伸び悩みが明確に示されています。
増えない理由としては大きく2点あるのではないかと考えられます。
まず、担い手となる地域住民が高齢化している点です。日常的にサービスができる方となると、現役で仕事をされている方には困難なので、自ずと退職している高齢者がメインとなり、後継者に悩んでいる事業者も少なくありません。そして、これらの担い手不足となる理由には、報酬の低さもあると考えられます。

小島さんによると、3年に1度の報酬単価の改訂で地域福祉事業は苦しい立場に立たされていると言います。基本報酬は据え置かれ、加算は上がらず、コロナ禍での利用控えで廃業する事業者も多いそうです。さらに、要介護2の利用者の多い地域密着の小規模施設は今回の改訂では、要件が緩和された分報酬はかなり低くなるだろうと厳しい改訂となると明言。財政制度分科会では、「大規模法人ならやっていける報酬(加算)にするので、ついてこられない小規模法人が出てきますが、覚悟してください」と厚労省の役人の発言は、経営の大規模化を示唆し、小規模事業所が淘汰されるのもやむなしという考えです。
このような状況で、一番大変な要介護1、2の方を総合事業で支えられるのでしょうか。地域への丸投げともとれる、現場を全く知らない非現実的な提言に怒りを覚えます。高齢者の生活をどのように支えていくのか、根本的に考え直す時期に来ています。